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2014年公開映画のベスト10本

      2015/12/02

・今年も映画を色々見ました。来年はたぶんこんなに新作は観れないだろうなあという予感を抱えつつ。

2014年劇場公開映画の中から10本(順不同)


年末1「そこのみにて光り輝く」

(【日本】監督:呉美保)

公開規模は少なかったが、同じく佐藤泰志原作の映画『海炭市叙景』を見てすっかりこの作者の世界観に魅了されていたので勇み足で劇場に駆け込んだ。

結果、こちらの予想を超えて心に突き刺さる作品で今も書きながらキツイ感覚を味わっている。特に辛い過去を持ち、酒浸りの生活で自暴自棄になるほどの闇を抱えた主人公が分だけが闇を抱えている存在ではないことに「ある場所」で気づいてしまう描写は言葉にならない重みをもっていた(劇場で呻いた)、一見普通の明るい登場人物たちが抱える闇を同じく闇を抱えたまま見据える綾野剛の目がいい、その暗い眼を持った人物だからこその慟哭の演技が胸に響く。

地方都市にある「重み」を実直に描くとともに、それに負けない風景や世界への眼差しは美しく、音楽の使われ方含め2014年の映画と言うならば一番にこれを上げる。


年末2「6才のボクが、大人になるまで。」

(【アメリカ】監督:リチャード・リンクレイター)

「4人の俳優が実際に12年間家族を演じたフィクション」ということだけでも凄いが、それが単なる設定ありきではなく同じ人物が演じるからこそ、ところどころの台詞が劇中の演技を抜け出ているような気がして感動する。そしてある選択の決断が次の年代でほのめかす形で語られる構造が「ああ、そのために、こうなったのか」と選択の非情さを思い知り抒情的な気分になる。

そういう選択と成長の映画として考えると「少年時代」と訳される原題の「boyhood」は主人公だけの事を指しているのではないとわかってくる説話も見事だった。映画内に出てくる小道具や風俗、社会背景が現実の世界ともリンクしており、時代によって思想や文化も変わっていくのを見る楽しさも見どころ。

166分と長丁場だが映画の終わりにはまるでこの家族の親戚のおじさんのような気分になり、この奇跡のような作品が終わってほしくないと願うほど感情移入してしまった


年末3

 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」

(【アメリカ】監督:ジェームズ・ガン)

銀河を舞台にアウトローたちが暴れまわる。しかしアメコミのヒーローのように外見が格好良いわけではなく、そして有名でもない。

強いけれど何かに負けた人たち、普通には生きられない人たち、そうしたアウトローたちが出会い反発して仲間となっていく系映画として一つの完成を見せつけられた。監督ジェームズ・ガンはその描き方が本当に上手い。他者の「傷」への配慮、そういう何かが欠けたものへの寄り添うような美学が見事だからお互いの傷にあえて踏み込んでいく衝突は台詞のひとつひとつが心に突き刺さる。

その視点は後半で名も知らぬモブキャラにすら注がれていて、後半のある場面でのそのキャラの見せ場ではアライグマのロケットと一緒に叫んでしまう(心の中で)、「ああ、やってやるかあ」とおちゃらけながら真剣にやるキャラクターたちの描写が本当に「わかってる」、ラストの展開はここのところの王道物語として一番好き。


年末4

 「アデル・ブルーは熱い色」

 (【フランス】監督:アブデラティフ・ケシシュ)

「レズビアンの過激なセックス描写」というR-18の話題のみが先行してしまった印象。

けどこの映画の凄いところは芸術家肌の人に「出会ってしまった」一人の女性という、ある意味で恋愛の普遍性を描いてることだと思った。サルトルを語り、自分の意思を強固に話す青髪の芸術家アデルと夢は小学校の教師という素朴な主人公、話も文化も出自もそもそも違う二人が出会ってしまった「どうしようもなさ」と「しょうがなさ」をチュニジア出身の非エリート出自のケシシュ監督だからこそ両者とそのまわりの関係を含めて丁寧に描いてるのかなと。

ううむ、語るのが本当に難しい映画、どこがどう?と言われても困ってしまって断定できない映画、そもそも唇半開きのまま状況に流される主人公にはかなり苛々することも多くて、でもそのだらしなさ含めて映画的魅力に溢れててずっと考えてしまう。つまり後を引く作品。


年末5「収容病棟」

(【中国】監督:ワンビン)

一人の老女が三時間ひたすら語り続ける映画『鳳鳴(フォンミン)-中国の記憶』で度肝を抜かれ、作品ごとにまったく違う世界を見させてくれる王兵。彼が今回舞台に選んだのは中国・雲南省の精神病院。想田監督の『精神』やワイズマンの『チチカット・フォーリーズ』と精神病院を舞台にしたドキュメンタリーはいろいろあるがこの作品はそのどれとも違っていた。

中庭を取り囲むようにはりめぐらされた鉄網、そのまわりの廊下で昼夜の概念もなく歩き回る「患者」たち、カメラの外側では常に叫び声が聞こえる病院での群像劇は眩暈に似た感覚を起こさせる。そうした眩暈が後半になるとなくなり、この世界のルールに慣れていきともすれば患者たちに親近感が湧いたその瞬間、ある恐ろしいことに思い至るのがこの映画の凄さだ。「この人はそもそも病気なのだろうか?」と。

対象を躊躇なく撮ってしまっていいのだろうかという倫理的な問題も含めて必見である。


年末6「リヴァイアサン」

(【アメリカ・フランス・イギリス】監督:ルーシァン・キャステーヌ=テイラー、ヴェレナ・パラヴェル)

世界を見る映画ではなく、世界から見られる映画というのがこの作品を説明するときに自分がよく使う言葉だ。

舞台は港町ニューベッドフォードから出航した巨大な漁船、そのドキュメンタリーと要約は出来る。しかしそうした事前の情報は冒頭の映像からすべてふっとばされてしまう。誤解を恐れずに言うならばこの作品は自分が捕食される側の視点に立つ映画だと思う。魚が捌かれ蹂躙されていく様子を生簀の中でなすすべもなく見守るしかない映像、海面に何度も叩きつけられるカメラ。息苦しさのなか見る側はこの「漁船」の異様さこそ聖書に出てくる怪物「リヴァイアサン」かと思う。

しかしそれ以上に虐殺を担っている人間もこの巨大な漁船の中で一歩間違えれば死に至る過酷な状況、そこにあるのは魚も人間も等価なのではないか?と思わせる「何か」がこの映画にはあらわれてしまっている。


年末7「グレートビューティ 追憶のローマ」

(【イタリア・フランス】監督:パオロ・ソレンティーノ

第86回アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞。タイトルとオシャレな雰囲気から見る前はノスタルジーたっぷりの観光映画かなと思っていたら、これが高尚なことも知りつつ、ローマに入り浸ることで退廃を極めてしまった老小説家の話であった

現代美術に代表される資本主義への容赦ない風刺、しかし心からそれを非難するのではなくそれを生み出している人間の俗物さを主人公は愛してしまっている。そうして身に着けた生きていくための術、俗物の王となる野望が果たされた今その心には空虚が広がっていた。フェリーニの系譜に連なりつつ、この空虚を神や超越的なものという存在なしに埋められるのかといった視点が幻想的なカメラワークと共に描き出されていた。

キネカ大森で『ローマ環状線』という、その世界から取り残されつつも豊饒な世界を獲得している人々のドキュメンタリー映画と一緒に見たからこそ記憶に残っているのかもしれない、偽物が本物っぽくふるまっているのを容赦なく糾弾する主人公の長台詞が見物。


年末8「her」

 (【アメリカ】監督:スパイク・ジョーンズ)

奥さんにふられて傷ついた男が再び付き合うことになった「彼女」は自分の趣向に完全に一致したOSであった・・・という少し未来のお話。

あらゆる人生のきらめきを得た上での前の彼女との破局、もう人生において「ときめき」なんて得られないのではと思ってた主人公セオドアが出会った「サマンサ」、声だけの存在である彼女に恋する感覚を最初見る側は共有できず無理でしょと思う。しかし彼女のチャーミングなセリフの応酬や(声がスカーレット・ヨハンソン!)彼女と過ごすことによって世界の見え方が変わり世界がきらめきを取り戻していく様子にだんだんと微笑ましくなり、ついには「二人」を応援するようになる。

この恋がどういう形になるのか想像しながら見るのもいいかもしれない。中盤から後半の展開に嫌いだという人はいても駄目な映画と思う人がいないのも特徴的充実した中身、外側の空虚さという感覚が全編に散りばめられていて、主人公が代筆屋と言うことも含め「言葉」というあやふやなものに対しての映画とも読み込める。


年末9「MUD」

(【アメリカ】監督:ジェフ・ニコルズ)

年間映画ベストテンということになるとどうしても下半期の映画ばかりランクインしてしまう。けどこの映画は上半期ベストテンに入れてやはり自分にとって大事な一本だなと考えた作品。冒頭、両親の喧嘩を盗み見した少年が逃げるようにミシシッピ川を友人とボートで上り、マッドに出会うまでの一連の流れの素晴らしさ、ベーシックな力強い物語というのがここまで体現されている映画も珍しい

道を外れた男に少年が心惹かれていくという古典的な設定と泥、川、拾うことなどの細部のイメージが響きあい堂々たる傑作だった。様々な「愛」を区別できない少年が「愛」という言葉がいかに複雑で脆いのかを知ってしまい、そのすべてをマッドに叩きつける慟哭の演技を是非見てほしい。物語の行く末を見守るのが実は・・・という構成も好み。2014年はマシュー・マコノヒーの年であった。


年末10「インターステラー」 

(【アメリカ】監督:クリストファー・ノーラン)

コンセプチュアルすぎて嫌いという意見もあるが、設定やテーマ先行でややもすればパワーにかけるクリストファー・ノーラン映画の中で、この作品は粗も多くあるがエモーショナルな感覚に満ち溢れていた(その無理やりな突破力が嫌いと言う映画ファンは多いが)

膨大に登場する劇中に登場する作品や詩がすべて絡み合って、単なる知識のひけらかしではなく重層的なものとなっているので見る人は様々な読み方が出来るのも面白い。何よりも地球から遠くなればなるほど、宇宙で過ごした短い時間が地球では膨大な時間が流れているという設定を実感のあるものにさせたアン・ハサウェイとマシュー・マコノヒーの演技が凄かった。『2001年宇宙の旅』では超越的なものの視点があったが、『インターステラー』は人類はまだどこまででも行けるという「いま」「ここ」での浪漫への再構築物語として自分は見た

 

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 - まとめ, 映画評

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