なめていたのは俺だった!傑作『超高速!参勤交代』を見て続編リターンズに備えよ!
2016/09/15
時は8代将軍・徳川吉宗が世を治める享保20年(1735年)、磐城の弱小藩・湯長谷藩は江戸での参勤交代を終えて郷里へと戻ってきた。思い思いにそれぞれの休みを満喫する一同。
しかし突然江戸より使者が、湯長谷藩に江戸幕府の老中・松平信祝の命令が下る。
その内容は「5日のうちに参勤交代せよ」というもの。松平信祝は湯長谷藩が金山の所有を隠しているとの報告を受けて、参勤交代を失敗させることで湯長谷藩を潰し金山を所有しようと目論んでいた。
人手不足にお金不足の状態で湯長谷藩は奇策をもって参勤交代することに決めるのであった。
「超高速!参勤交代」のはじまりである。
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第37回城戸賞受賞の脚本の面白さ
本作は城戸賞を受賞した土橋章宏の脚本を本木克英が監督した作品である。斉藤守彦著『映画を知るための教科書』によると、
松竹が2014年に公開し、興収15・5億円のヒットとなった「超高速!参勤交代」は優れたシナリオに与えられる城戸賞を受賞したシナリオの面白さを評価したプロデューサーが企画開発を行い映画化にこぎつけた例である。(『映画を知るための教科書』p34より)
全国規模で公開される邦画は、現状オリジナル脚本が少なくほとんどが原作ありきといった傾向が強い。
映画の企画を作る際には、話を通しやすくするために(=予算を確保しやすくするために)オリジナル脚本で賭けをするよりもある程度採算が見込める知名度のある原作を選んでしまう構造となっているからだ。
そう考えるとこのような作品がヒットしたのはなんだかおもしろい。
妻子を江戸に住まわせることで年に一度諸大名を強制的に江戸へ参勤させ、彼らにお金を使わせて「反乱」を防ぐ参勤交代というシステム。その構造を奇策をもって凌ぐ田舎侍の奮闘劇に、トップダウン方式で企画が決まっていく日本映画のなかで悪戦苦闘する製作陣の意地を見たような気がしたからだ。
田舎侍の意地を見せつける俳優陣
情動で物語を進めるのではなく、とにかく目的は「5日で江戸へ参勤すること」
そのために繰り出される奇策の数々が非常に面白かった。
刀などはすべて置いていき、ショートカットするために少人数で山をひたすら走り、参勤交代の監視がある宿では通過した先頭集団が急いで後方に戻って人数を誤魔化すといった死に物狂いの参勤である。しかし殿様・佐々木蔵之介はひょうひょうとこなし、西村雅彦は困り顔で頭を働かせ、寺脇康文ら家臣団は殿のため自分たちの領地のために奮闘する。弱小の藩を体現した彼らの泥臭い演技が実にハマっていた。
それを邪魔する敵役・陣内孝則の演技も格別。「鯛はうまいところが少ないのお」と鯛の目玉だけ食べて、他は捨てさる悪の所業。当然この高みに立って下々を見下し権謀術数を図る敵は、土地や百姓を大事にする磐城の弱小藩・湯長谷藩の面々を下に見る。
しかし、これは実は舐めてた案件。
後半にかけて「武士の覚悟」をこれでもかと見せつける田舎侍の勇姿、実は一人一人が最強の実力者であり、生ぬるいことを言っていても殺すときはしっかり殺す覚悟に燃えた。
パッケージなどで本作が生温い展開なのかなと思ってしまった自分は敵役と同じであった。つまり舐めてた。
帰るまでが参勤交代です。そして「超高速!参勤交代リターンズ」へ
少し長いかなと思えた後半も何度か見直していると、老中に「上も下もないんだ。みんな人間なんだ!」と啖呵を切る深田恭子の姿に、そして現在の福島県から来た殿様が現在の東京にいる将軍(四代目 市川 猿之助)に向かって「民の声」を代弁する語り方に、上に立つ奴らよ!なめるんじゃねえ!と、かつて時代劇が持っていた批評精神を感じた。
さて「参勤」は成し遂げられた、しかし今度は「交代」である。ということで本作は続編が作られることになった。題名は『超高速!参勤交代リターンズ』である。家に帰るまでが遠足ではないけれど、帰るまでが参勤交代!という予告編に、「ああ!その手があったか」と思わず膝を打ってしまった。
ちなみに本作はアマゾンプライムやネットフリックスなどの動画配信で鑑賞できる。続編に備える意味合いを込めて、疲れてるときでも最後までぐいぐい見させてくれる『超高速!参勤交代』は非常にオススメである。
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