500円でどこまで価値を広げられるかは読み手次第『大学受験対策 地理データファイル』の凄さ
2015/12/02
Contents
中学の学びと高校の学びの違い
すべての学問は役に立つと胸を張って言えるが(いろんなことを学んでいなかったら今の自分はここにいないわけで)その「役立つ」というのはまあ、どんな風にも言えるのでそこに確固とした答えはない。
ここでは一例として高校の勉強は役に立つということを考えてみたい。
小中の授業は識字教育、および最低限の計算と常識といった意味でなくてはならないもの。高校の授業はそこからより抽象的な思考への道筋、より高度な思考への橋渡しといった、つまり世界や社会がどのようになりたっているのかなんてことを学ぶ時期だと捉えている。
佐藤優は著書『読書の技法』のなかで高校の政治経済をマスターすれば、国際政治の一般書の理解が格段に高まるとして参考書の『理解しやすい政治経済』(シグマベスト)を読むように薦めている。抽象的な思考、分析のためには基礎的な用語の理解が不可欠だという意見だ。
学びなおしたいこと、それは「地理」
というわけで、より高度なものの吸収にはその前段階の基礎的知識を学ぶと良いと当たり前のことを再確認し、だからこそあらゆる分野で高校の学び直し本が売れるわけだ。そして、この傾向を踏まえて自分の嫌いな言葉ベスト10にランクインする「あの時もう少し勉強しとけば良かった」をあえて言うならば
その分野は「地理」である。
なぜなら、地理についての情報が不足しているため国際情勢と地政学の本を読んでいるときに論旨の把握が遅れることが多々ある。だから各国の産業構造、河川や山脈の、港の位置、EUの主要工業地域などをもう少し早い段階で頭に叩き込んでおけばより立体的に情報を把握できただろうなと思っている。
『大学受験対策 地理データファイル』は、そういう問題意識を踏まえたうえで参考書コーナーを見ているときに出会っためちゃめちゃ役立つ本だ。
ふつうは受験生用の本だが・・・
じゃあ地理の知識が不足していると思ったときに一から教科書を読むかというとそれは時間も熱意も少し辛い、それよりかは、どちらかというと少しずつ補強していく学びの方が始めやすいし続くんじゃないかと思う(たとえば日本史学びなおしたいと思ってる人で仏像に興味があるなら仏像から日本史を学んでいくといった方向など)
そして自分にとってはこの本から「地理」分野の補強が出来、自分に必要なものがここには入っていると確信した。
どういうことか?
この本は一応の位置づけとしては地理の受験生がデータの読み方などを学ぶ副読本で
見た通り、数が羅列されてるだけ、簡素な構成で一見とっつきづらい、しかし中身が凄い。
具体的な使い方、たとえば「ベトナムの珈琲」
いろんな使い方があると思うが、自分のこの本の使い方は「ん?」とおもったところに赤でチェックをすることである。
知っている知識の合間に見え隠れする、その「ん?」というのは今ある知識の隙間や今ある知識の先に存在する思わぬ「宝」なのだ。(以下、下線から具体的な使い方。飛ばしてもおk)
たとえば、「小麦の輸出入」
輸出の一位は「アメリカ合衆国」である。
これはわかると思うが、輸入の一位が「エジプト」なのである。1985年も2011年も一位。さてというわけで「エジプト 小麦」で検索すると、面白い情報がいくつも出てくる。あくまで検索結果なので引用は省く。
- 小麦はエジプトの主食パンの原料。小麦の半分をパンにして安く国民に供給してきた歴史。
- 1975年から輸入量第一位キープ。
- 2013年7月のニュースでは、小麦の備蓄が政変による外貨不足で底をつく恐れというニュース。(ロイター)
続いてこんなのも。
「中国は穀類の不作により、過去6カ月で150万トンの小麦をオーストラリアから輸入した。これにより、輸入量累計は約3倍になるとみられ、従来予測をはるかに上回っている。これで中国はインドやエジプトを抜き、豪州最大の小麦輸出国となる」(ロイター通信の報道を引用した「環球時報」より2013年8月の記事)
小麦の生産は2011年は中国が一位でインドが二位。輸出輸入は二か国とも上位10か国には入ってこない。おそらく自国の生産量でまかなっているのだろうが、しかし、2013年のように中国の状況次第で輸入の順位が変わることもあり、小麦の価格に大きな変動が出る恐れがある。
と、こんな使い方が出来るわけだ。
また、例えば最近値上げがすごいことになっている珈琲について
珈琲豆の輸出量の一位は2011年はブラジルで、なんと二位はベトナムである。
調べてみると驚くことに2012年は輸出量こそブラジルの首位は揺るがないものの、輸出高においてはベトナムがブラジルを抜き一位となったというニュース。
続けてベトナムの珈琲について調べてみると、
- 品質にばらつきがあるためその潜在的価値に比べて価格は低い。
- 商標登録や生産管理もまだ未熟。
という記事。てことは生産管理やブランド化によって水準が安定してきたらどんどんベトナムコーヒーの価値が上がるのでは?なんてことも考えられる。
『データブック地理』は、こうやって調べて仮説を立てて考えていく分析の面白さが味わえる。もちろん専門家ではないので実際の要因はもっともっと複雑で予想は大きく外れるかもしれない。しかしその出来事に対しての要因を考えていく一歩の本として薦めたい。
終わりに
いま話したこれらの情報はその筋に精通している人には当たり前なのかもしれない。
しかしデータのすべてに精通している人は少ないはずだ。既知と既知の間に思わぬ未知が横たわっていて、それを調べていくと思わぬ情報が手に入る点で特定のビジネスに従事している人にも、何か事業を起こそうと考えている人にも、記事に悩んでいるライターにもこの本は絶大な力を発揮する。読む人にとって価値が変化する本、それが500円。
変な新書をこの値段以上で買うより遥かに有益なのは間違いない。
↓興味を持った人はこちらのより詳しい『新詳 資料地理の研究』も膨大な情報が載っていてオススメ
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