映画『GONINサーガ』感想、そして瘴気はよみがえる
2015/11/26
時代の瘴気を存分に吸い取った悪魔的な魅力を持つ映画『GONIN』、その19年後に公開された正統続編『GONINサーガ』は時代の制約をものともしない情念の噴出が素晴らしすぎて、それを真正面から浴びると、前作への愛ゆえに受け入れられない人の呻きや筋の杜撰さをあげる声のすべてが実にどうでもいいと思わされる作品だった。
『GONIN』という物語
前作『GONIN』は1995年、陰鬱な空気の漂うバブルのはじけた東京を舞台に、佐藤浩市・本木雅弘・椎名桔平・竹中直人・根津甚八演じるやぶれかぶれの五人が、公に出来ない上納金目当てでヤクザの事務所を襲撃するという物語であった。
しかし、現金の強奪には成功したものの彼らは殺し屋の手によって一人また一人と殺されていく。殺し屋を演じるのは木村一八と事故直後のビートたけし、容赦ないバイオレンス描写と個性的な役者同士の衝突による情念の噴出は観る者に衝撃を与えた。
サーガの冒頭で、これらの顛末が抗争の最中に殺されたヤクザの息子たちによって語られる。
『GONINサーガ』因果は巡る
19年前の事件で大越組は解散。組長の遺児である大輔(桐谷健太)は大越組の再興という野望を胸に五誠会の三代目・誠司(安藤政信)のボディガードをし続け、弟分の勇人(東出昌大)は母を支えるため真っ当な人生を歩んでいた。ある日、事件の真相を追っている富田(柄本佑)と名乗るルポライターが現れたことから、止まっていた時間が静かに動きはじめる。
五誠会に養われている元アイドルの麻美(土屋アンナ)も合流し、それぞれの思惑で五誠会の裏金のある事務所を襲撃する彼らの姿はまるで過去の事件を模写しているかのようだ。実際に彼らは前作と同じ銃を使い、同じ身振りを繰り返し、同じく襲撃に成功した後に殺し屋が送り込まれる。その竹中直人演じる明神という殺し屋が画面に現れたときの衝撃は凄まじく、いままで軽い雰囲気だった映画にじわじわと瘴気が充満し始め、現実と虚構の境目がぐらぐらと揺れる。
さらに前作の挿入歌、ちあきなおみの「紅い花」が流れるなか『GONIN』のただ一人の生き残りである氷頭(根津甚八)が息を吹き返す。満足のいく演技が出来なくなったことから役者を引退した根津甚八の11年ぶりの演技によって映画の空気がガチリと切り替るのを肌で感じた。
前作のような向けられた銃を横手で払ったために、銃弾がダンスホールで踊ってた女性の足を貫き身体が横向きに滑り落ちるといった自然すぎて恐ろしいバイオレンス描写はなく、筋を分断する不自然な暗転処理が目立つ今作。しかし2000年代の気だるい雰囲気に抑え込まれた90年代の妖気が、汚物と埃にまみれた2010年代の五人によって解放され、ダンスホールを生者と死者で埋め尽くしていく情念の噴出に涙と震えが止まらなかった。
『GONINサーガ』の瘴気(ネタバレあり)
五誠会の裏金を強奪することに至っても映画の登場人物たちから前作のようなやさぐれは感じ取れない。むしろ勇人たちの姿には爽やかな感じさえ抱く。
ここに1995年から約20年間、既に社会が低迷期にあった時代を当たり前のこととして生きてきた世代の姿を感じ取るのは容易だろう。反抗してもどうしようもない諦めにも似たムードで日々をやり過ごす彼らのくすぶる気持ちは痛いほど伝わってくる。
だからこそ氷頭が復活して以降の画面に溢れ始めた情念に涙が出るのだ。五誠会の三代目組長の結婚式をクライマックスに置き、すべての始まりの場所であるダンスホールの真下で埃と糞尿にまみれながら待機する勇人たちの姿は、くすぶりつつも消えることはなかった反抗心を体現している。決行当日の華やかな世界をスクリーンの裏側から見据える4人の表情、スクリーンを切り裂き「また会おうぜ」と叫び優雅な世界へ侵攻する東出昌太の演技に痺れないはずがない。
兄貴と弟分による香港ノワール映画のようなコンビネーション、警官の息子とヤクザの息子のかけあい、さらに前作でのすべての元凶である男の娘である麻美をかばう大輔の姿は既に過去の因縁を解き放ち自分たちの物語を生きている。過去の幕引きを図るのは過去の人物、ボロボロになりながらも相手を仕留めることに執念を燃やす根津甚八の姿は演じることの業をこれでもかと見せつけてくる。
それをスクリーンの向こうから微動だにせず見つめ続ける柄本祐の表情も素晴らしい、生きているのか死んでいるのか、どっちでもいいと言わんばかりに生者と死者が入り混じるこのダンスホールでは、すべてのはじまりを作った人物すら蘇る、脇役でしかなかった三代目の花嫁さんですら自分の生きてきた物語をぶつけるように銃をとりダンスホールを死者で埋め尽くしていく。
そして麻美が「ま、いいっか」とかすれた声でつぶやき、崩れ落ちて(これは石井隆監督『天使のはらわた 赤い眩暈』におけるヒロイン奈美の台詞でもある)映画はブツッと終わる。『GONIN』のテーマソングとともに斜め文字のスタッフロール、東京の夜景を映し出す流れの素晴らしさは、近年の邦画でも類を見ない切れ味鋭い終わり方で自分の心は完全に持っていかれた。
持って行かれたまま、ふらふらと映画館を抜け出た先は雨が降る夜の歌舞伎町。こんなに素晴らしい映画体験はしばらくないだろう。
↓公式サイトの『GONIN』解説動画。
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