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クリストファー・ノーラン『インターステラー』最新予告編~ディラン・トマスの詩~

      2015/11/26

 昨日映画『ジャージーボーイズ』を見るために映画館へ行った際、予告編でクリストファー・ノーランの新作『インターステラー』の映像が流れた。

その中でディラン・トマスの詩が引用されており、その使い方に「お!」という感動と「あれ?」という疑問が生じた。

(1:48~あたり)

「”おとなしく夜を迎えるな。賢人は闇にこそ奮起するもの。消えゆく光に対して果敢に挑むのだ”

「rage rage」の直訳「怒れ、怒れ」の部分が「挑め」となっているのは予告編特有の意訳だが(そういえば最近だと『猿の惑星 新世紀』の「War has begun.」が予告によっては「戦いは止められない」だったりした。普通に「戦いは始まった」じゃインパクトが弱いのか)劇中に出てくる詩をキャッチフレーズのように使う手法、とても良い。

が、ここで疑問が。

ディラン・トマスの詩『Do not go gentle into that good night』の冒頭部分の引用が、自分の知っている訳とニュアンスが違う気がしたのだ。

ちなみに冒頭の詩の原文はこちら。

Do not go gentle into that good night,
Old age should burn and rave at close of day;
Rage, rage against the dying of the light.

ということで自分が持っている新潮社『世界詩人全集19』所収の松田幸雄訳を引っ張って見てみることに

そして驚き


あのやさしい夜のなかへ静かにはいってゆかないでください、

老人は日の暮れに燃えあがり怒号するものなのです。

怒ってください、怒ってください、光の死んでゆくのを


 

や、柔らかい。奮起するというよりむしろ痛ましい感じのほうが伝わってくる。自分が知っていたのはこの訳だったからこそ字幕とのニュアンスの違いに戸惑ったようだ。

しかし原文を見る限りDo not~であるしrage rageのリフレインもあるし、おそらく予告編のほうが原詩のニュアンスが近いんじゃないかと思い、別の訳を調べてみることに。

映画で学ぶ英詩入門』に紹介されている訳(鈴木洋美訳?)はこんな感じだった。 


あの快い夜のなかへおとなしく流されてはいけない

老齢は日暮れに 燃えさかり荒れ狂うべきだ

死に絶えゆく光に向かって 憤怒せよ 憤怒せよ


 

今度はまるでアジテーションのような訳だが痺れる。そしてこちらの方がやはりあっている気がする。というのも、この詩はディラン・トマスが死にゆく父に向けて作ったというのが定説になっており、自分自身にも病の父にも言い聞かせることによって、すべてを奮起させ死に向かう道を引きとどめようとする強い意志を感じるからだ。

詩の訳が既に詩の解釈である以上、読みの数だけ様々な解釈が発生する。しかし、今回の場合おそらくノーランは「奮起する」という強い言葉で詩を引用したに違いない。

それは映画『インターステラー』が(予告編から察する限り)滅亡間近の地球を守るため宇宙へ旅立つ父親というテーマゆえにである。死にゆく地球の運命に抗うと物語が、不可能なことを知りつつ奮起する詩の雰囲気と調和している。だからこそディラン・トマスのこの困難に立ち向かう詩が映画のどの場面で使われるかは非常に気になるところだ。

映画は11月22日より公開される。

 (最後に詩の全文(あえて松田幸雄訳)、それとディラン・トマスによる朗読を掲載しました)

ディラン・トマスの唄うような朗読の素晴らしさを是非聞いてみてください。


Do not go gentle into that good night

Dylan Thomas, 1914 – 1953

 

Do not go gentle into that good night,
Old age should burn and rave at close of day;
Rage, rage against the dying of the light.

あのやさしい夜のなかへ静かにはいってゆかないでください、
老人は日の暮れに燃えあがり怒号するものなのです。
怒ってください、怒ってください 光の死んでゆくのを。

 

Though wise men at their end know dark is right,
Because their words had forked no lightning they
Do not go gentle into that good night.

賢人たちは死に臨んで闇は正しいのだと知っていますが、
彼らの言葉が稲妻を引き裂くことはなかったので、
彼らはあのやさしい夜のなかへ静かにはいってはゆきません。

 

Good men, the last wave by, crying how bright
Their frail deeds might have danced in a green bay,
Rage, rage against the dying of the light.

最後の波の過ぎてゆくそばに、彼らのめめしい行為が
緑の入り江でどんなにきらきら輝いたか叫んでいる善人たちよ、
怒ってください、怒ってください 光の死にゆくのを。

 

Wild men who caught and sang the sun in flight,
And learn, too late, they grieved it on its way,
Do not go gentle into that good night.

飛びゆく太陽をつかまえて歌ったが、それは
太陽を途中で悲しませたのだとあとから気がつく野人たちよ、
あのやさしい夜のなかへ静かにはいってゆかないでください。

 

Grave men, near death, who see with blinding sight
Blind eyes could blaze like meteors and be gay,
Rage, rage against the dying of the light.

死に近づき、盲いた眼が隕石のように輝き生き生きとしえたのを
みえなくなってゆく視力でみている、大人たちよ、
怒ってください、怒ってください 光の死にゆくのを。

 

And you, my father, there on the sad height,
Curse, bless, me now with your fierce tears, I pray.
Do not go gentle into that good night.
Rage, rage against the dying of the light.

そして、おとうさん、あなたは そこ 悲しみの絶頂にいますね、
どうか、わたしを呪い、祝福してください、熱い涙で いま。
あのやさしい夜のなかへ静かにはいってゆかないでください。
怒ってください、怒ってください 光の死にゆくのを。


 

 

【関連記事】

・映画→詩←映画『英詩と映画』評

・~永遠なるものへの願い~映画『アウトサイダー』評

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