甦る宮本武蔵!燃える江戸城!!『魔界転生』(1981)の圧倒的面白さにエロイムエッサイム!!
2015/11/26
呪いの闇に巣喰う者よ、毒持てる蛇、禍々しき悪魔よ、今こそ現われて災いの力を貸せ。姿を見せよ。来たれ。復讐するは我にあり。我これを報いん。
エロイムエッサイム、我は求め訴えたり。
天草史郎時貞、劇中台詞
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いや、ここまで面白いと思わなかった。
非常に長い山田風太郎の原作から、島原の乱で無念の死を遂げた天草史郎時貞を敵役とする脚本が絞りあげられ、彼が悪の軍団を結成していく過程が実に魅力的に描かれていた。
現世に執着を残した歴史上の人物が悪魔の誘惑に逆らいきれず、「魔人」となり果て徳川の世に反旗を翻すという「ほら吹き」が設定のみに充足してないのは、細川ガラシャ演じる佳那晃子の狂気の笑いや、宝蔵院胤舜演じる室田日出男の強烈な欲望解放生臭坊主ぶりなど、それぞれの役者が凄まじいまでの迫力でキャラクターを演じているためである。
迎え撃つ柳生十兵衛演じる千葉真一は彼ら「転生衆」に勝てるのか、いやマジで無理なのではないか、その緊張感に最後までまったく飽きることがない。
その魔人の軍団に十兵衛の父が加わってしまう展開はゾクゾクする。
「柳生」の名を後の世に残す、ある意味ビジネスマンのような合理的な思考を持つ柳生但馬生が病の果てに望んだこと、それは自由奔放な生き方をする息子・十兵衛と戦いたいという剣豪としての欲求であった。
この設定はめちゃくちゃ燃える。
実際にラストは江戸城も燃える。父と子の日本映画史に残る名バトルシーンは、見るものすべてを釘付けにする異様な迫力に満ちていた。それを時代劇研究家の春日太一は『時代劇ベスト100』のなかにおいてこのように述べている。
最後に十兵衛を待ち受けるのは、柳生但馬生。演じるのは十年前に映画『子連れ狼』シリーズをヒットさせた≪伝説の剣豪スター≫若山富三郎だ。但馬守と十兵衛は役柄の上では実の父子だが、殺陣の上では若山は千葉の師匠に当たる。それだけに、剣を突きつけて対峙し合う両者の間には、ただのフィクションではない迫力があった。
『時代劇ベスト100』(光文社新書)より「魔界転生」の解説
特撮でもCGでもなく実際にセットを火にくべ、炎燃え盛るシーンで決して瞬きをしない若山富三郎の鬼気迫る演技、全身に魔よけの梵字で迎え撃つ千葉真一、火の粉が舞い散り、燃え木が画面の隅でごとりと落ちる、その緊迫感には思わずフィクションだということを忘れてしまう。
また、緒方拳演じる宮本武蔵の佇まいも素晴らしい。老宮本武蔵が望むのは天下無双の柳生との戦い、それを叶えることなく死んでいった後悔と願望により彼は転生したのだが、しかし実は十兵衛は宮本武蔵の亡くなる直前に彼の住居を訪ねており、父である柳生但馬守も病気で満足に剣をとることも出来なかった。彼ら柳生が武蔵との戦いを避けていたわけではないとも捉えることの出来る歴史解釈が良い。
もちろん細かい点を見れば、天草史郎の目標がわかりづらい、「転生衆」はみんなベテランだから若き真田広之の高笑いが似合わないわと思ってたら、あっさり天草史郎に殺されてしまう、村正折れちゃうのかよ!?など物語上の突っ込みどころはあるけれど、おどろおどろしい美術や登場人物の画面の力強さがそういう些末なものをすべて吹き飛ばす。
金をたくさんかけていようが監督・深作欣二の反権力指向は出てくるわけで、角川映画が現在のフジテレビ大作映画に代表される邦画の駄目さを助長したという意見はやはり一面的である。歴史物語はこういう壮大な嘘をつける、しかし、その「ほら吹き」を確たるものとするためにこそ美術や演技はしっかりと固めねばいけない、『魔界転生』には、そのことに対する職人的な矜持が隅々まで溢れている。
リメイク・・・?知らんな。
↓まったく知らない人には時代劇というジャンルは「水戸黄門」や大河ドラマのようなイメージのみが先行してしまいがちだが、とにかく凄い作品を見て「うおー!」と興奮したい人、細やかな情緒的側面を見たい人のために春日太一が批判覚悟で面白い時代劇を100本紹介したのが『時代劇ベスト100』という本。
一本でもここに出てくる映画を見始めれば、時代劇がググッと身近になること間違いなし。
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