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春日太一の時代劇講座(10月23日ver)

      2015/11/26

先日こちらの記事のなかで(会場内にビデオカメラがありましたのでたぶん書籍化するか何らかの記録にいずれなる気が)と書きましたが、春日太一の時代劇講座の動画ありました。早いです。

「春日太一のビギナーのための時代劇講座 1回目」(下のリンクから)

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書いた記事が意味なくなってしまった感がありますがw、こういう試みは嬉しいです(検索ワードに春日太一と検索したら他にも色々見ることが出来るようです)

それで四回目の「子連れ狼 三途の川の乳母車」がどうしても見たくて今日も行ってきました。4回目もアップされると思いますが自分の勉強用にまとめておきます。トーク自体はネットで見れ、DVDで作品も入手できますがやはり大画面で見る時代劇は役者の顔が大きく映るため表情の変化がよくわかり迫力が凄いです。行ける人は新文芸坐へ!

(気のせいか春日太一がどんどんやつれてる気がする)


今日からのトークショーは気が楽

・今日で四回目のトークショーですが気が楽。二回目の長谷川伸原作の二本(『関の弥太っぺ』『沓掛時次郎 遊侠一匹』も昨日話した『笛吹川』『宮本武蔵 一乗寺の決斗』も誰がどうみても不朽の作品で若輩者、場違い感が漂っていた。今日からのトークショーを行う6本は自分自身がセレクトしたので気が楽。

・昨日も言ったが水戸黄門であったりお年寄り向けのものという時代劇のイメージはここ三十年のパターンであって、時代劇というのはそもそも刺激に満ちた「現在進行形」の作品。今日の二本『子連れ狼 三途の川の乳母車』『祇園の暗殺者』は刺激に満ち満ちた作品としてセレクト。

*「祇園の暗殺者」はDVDもVHSも現在なし(2015年10月追記:TSUTAYAのレンタルDVDにありました)

・もともとラインナップとしては『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』『子連れ狼 三途の川の乳母車』と子連れ狼一作目二作目の二本立てで『祇園の暗殺者』は入ってなかった。脈絡なく作風も違うので食い合わせが悪いかもしれないが時代劇の幅の広さということで。

・全部のラインナップを見たときに『祇園の暗殺者』は明日の『十三人の刺客』と一緒でもよかった。共通する役者に菅 貫太郎がいるから。『十三人の刺客』では暴君役をしていて、そういうのをやらせたら上手い、俳優座出身の役者。俳優坐から東映京都に派遣。この映画の演技が高く評価された。

・当時東映と俳優座は関係を持っていて東映は優先的に俳優座の役者を使っていた。俳優座としても若い役者を送るメリットがあった。昨日の『宮本武蔵 一乗寺の決斗』吉岡伝七郎役の平幹二郎や明日上映する『十一人の侍』の夏八木勲なども俳優座出身。(この辺ノート曖昧。動画がUPされたらそれを見てみます)

今日の二本に共通するのは二人のスターの存在「若山富三郎」「近衛十四郎」

・二人とも殺陣の名手。よく言われる殺陣のうまい下手、これの判定はどうやるか?

・手数の多さ、スピード、激しさといったものだけが凄い殺陣ではない。それらは前提条件としてここから何を見せてくれるかというのが重要。それに関しては大きく分けると斬ることの凄みやられてしまうことへの痛みがある。

・共通するのは剣の重さ。時代劇で使用する剣は竹光に金属。軽いからササッとやってしまうと刀という感じではなくなる。そうすると見ている方も白けてしまうがこの二人にはそういうのがまったくない。斬るときに役者に当てるスタイル、当てない技術もあるが切られ役に当てる。そうするとアザがどんどん出来て撮影所が異様なテンションとなってくる。そして重心の動きと型が綺麗で重みを持っている。そのどしりとした感じに竹光であることを感じさせない。

・最強の男が敵をばったばった切っていくのは飽きるが二人の殺陣は見ていて飽きない。いろんなところでよく言っていることだが時代劇はプロレス的なものでもあって、相手の攻撃を受けるといったときにそれが下手だったり、やらないというのは白ける。この二人は両方とも悪役をやっていたので受けることに抵抗がない。主役だけをやっていたひとは汚れること。受けることが苦手。

・もしかしたらやられるんじゃないかという主役の受けの上手さは悪役が引き立つ。『子連れ狼 三途の川の乳母車』も三人の悪役とどう戦っていくか、若山の受けの上手さが見れる。この辺に関しては10月31日最終日でもっと詳しく語る

・『祇園の暗殺者』もラストシーンでスターがやらない立ち位置。芝居のなかでも負けている感じがよく出ている。ここに出てくる子役の女の子がトラウマ的に怖かった(注:マジで怖いです)そしてそれを怖がっている近衛十四郎の金縛りにあったような芝居も見事。そして同じく映画の中で佐藤慶にもだんだんと追い詰められていく、ベテランでありながら若手に追い詰められる演技ができる人、そういうバランスを考えながら見ていくと面白い。

・殺陣の上手さとは技法だけが独立したものではない。物語のワンシーンつまり登場人物の感情に沿ったものである必要性。それに合わせる演技力。若山富三郎は4~5年後「ドラマ人間模様 / 事件」やテレビ版「飢餓海峡」、木下恵介監督の映画『衝動殺人、息子よ』など時代劇だけではない現代劇にも出演、演技の感情表現が豊か。(この辺のノート曖昧です)

・近衛十四郎は殺陣の名人というフレーズゆえに殺陣の技量ばかり目がいって演技にあまり言及されないが『忍者狩り』や『十兵衛暗殺剣』のやられていく、追い詰められていく演技や『祇園の暗殺者』から数年後の「素浪人 月影兵庫」のコミカルな演技、立ち回りでは一変して怖くなるといったような幅広い演技ができる。この映画では立ち回りが少ないからこそ演技そのものもじっくり見れる。

とにかく面白い『子連れ狼 三途の川の乳母車』とにかく貴重な『祇園の暗殺者』

・俳優座出身の人は、時代劇の技量がなくても演技力で上手く見える。だからこそ京都撮影所の演出家も斬られ役などにその演技を見せ勉強させていた。時代劇は衰退しつつも、それがのちに任侠映画の斬られ役に生きてくることになった

・『子連れ狼 三途の川の乳母車』は純粋に面白い。いろんなアイデアで絶えず刺激を与えるかということを考えていた。足が飛んだり腕が飛んだり、冒頭見てもらえれば「あ、ガンダムの元ネタはこれだったのか」とわかると思う(笑)。そういう面白いものをひたすら詰め込める無限の器をもっている、時代劇の面白さの究極と言ったらあれですが、凝縮されている。

・最初から目を覆う残酷シーンが漫画的な表現ではなくちゃんとした痛みを持っているように見える。鉄の爪で頭を刺した時にちゃんと「痛み」の演技ができている。

・「祇園の暗殺者」はとても貴重な作品。数年前のラピュタ阿佐ヶ谷で上映したきり。初めて知ったのは高校の頃にキネマ旬報の脚本を見て。「なんてすごい感動的なんだろう」と思ったが、脚本家の笠原和夫自身が監督と演出をボロクソに言っていて何となく時代劇専門チャンネルとかでやっていても流してみてた。でラピュタ阿佐ヶ谷で見てとても面白かった。笠原和夫も間違いを言うことがあるんだ!という張りつめた雰囲気の良い映画。今回の上映で頼み込んで入れてもらった作品、色んな人に見てもらって楽しんでほしい。


 

ちなみに残りの新文芸坐のトークショーで上映する四本は以下のとおり。

10月29日「柳生一族の陰謀」「必殺4」、19:30~トークショー

10月31日「忍者狩り」「十兵衛暗殺剣」、18:35~トークショー

 

 

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