越境と覚悟について「映画批評をめぐる冒険」第二回(講師:真魚八重子)まとめ
2015/11/26
5月23日に第二回「映画批評をめぐる冒険」に行ってきました。
語り手は去年『映画系女子がゆく!』を出版した真魚八重子さん、司会進行は前回と同じく佐野亨さん。そしてトーク内容は「映画系女子の生活と意見」
・会場は同じく石毛家二階ギャラリー(http://ishigeke2f.jimdo.com/event/film-criticism/)
・意味が読み取れなかった文章は適宜削除したり文脈を補っています。(注:6月1日。佐野亨さんからいくつか誤記の指摘があったので直しました→追記の形でその箇所に文章を挿入。また真魚さんからトークショーでは敬称をつけて人を呼んでいたとのことで訂正、大変申し訳ありません!)
(注:冒頭自分は遅刻しました。映画『コワすぎ』シリーズについての記事を休むことなく書き続けていたせいです。申し訳ない、ちなみにその記事はこちら。宣伝)
Contents
「文化系女子」というカテゴリについて
(冒頭数分間は後で人に聞いたところによると、「キネマ旬報の映画本大賞2014」において『映画系女子がゆく!』と『映画の生体解剖』が入ってない!という佐野亨さんの問題提起(憤り)から対談が始まったとのこと)
(6月1日追記)佐野亨さん本人より後日twitterで訂正。
「キネ旬の映画本大賞に『映画の生体解剖』が入ってない、と憤っていたのは国書刊行会の樽本さん。『映画系女子』は僕を含め何人か入れてた。ただ、もっと上位でもよかったと思う。」
真魚八重子:『映画系女子がゆく!』は出版社からの文化系女子と映画を絡めて語ってくれませんかという依頼で書いた書籍。映画本を読んでない人でも文化系女子について知りたくて読んだ人が多い。
「文化系女子」というカテゴリは自称ではなく世間からのカテゴライズ。自分としてはニーズにこたえて作った書籍で、あまり本の名称に抵抗はない。「文化系女子」というテーマがあっても『イン・ハー・シューズ』とかあるのはカテゴリから逃れようとする意識による、結果として意外なものも入れたため幅が広がった。それにソフィア・コッポラに関する複雑な思いも書けた(笑)
自分自身インドアだし「文化系女子」というカテゴリに入るけれど、自称するものではない。その「文化系女子」には様々な内実があるということ。
佐野亨:こういう仕事をしていると「オススメ」の映画を聞かれることがあって、でも映画好きといっても話が合わない場面も多い。例えば『ピラニア3D』みたいな作品が好きと言った時、一応に「そういう映画が好きなのね」と括られることの弊害がある。つまり(そういった内実を無視して)カテゴリでわけることの弊害。
真魚八重子:例えば自分は普段ホラーとかポルノについて書きつつ、いわゆるシネフィル系と呼ばれる映画も見ている。そういう好きなものについて書ければいいけど、そうでなくても書ける自信がある。あとこの本では私自身について書いてない(「自分の恋愛の話なんてしたくない」)自我を確実にガッと持って映画を見るのではなく対象と溶けるとイメージ=「精神的カメレオン」。
自分なりに克服してきたものを、問題の因子の部分をじっと見据えて探究して他の人にもあるであろう感覚にして書いた。
映画の「コミュニティ」について、そして越境
佐野亨:前回も話したことに、自分ぐらいの世代は『映画秘宝』に大きな影響を受けている人が多い。それまでに価値がなかったものに対して「ツッコム」ことで価値を見出すコミュニティのあり方は、ネット上の書き手のありようと繋がっているのでは?
(6月1日追記:佐野亨さん自身は「ツッコム」は嫌いな言葉と言ってました)
真魚八重子:自分自身はweb上で好きな事しか書いてない(「見た映画を面白く書く」)。さっきも言ったようにいわゆる「秘宝系」や「シネフィル系」と呼ばれている作品を両方見ている。ただ、そこに属している一部の人は属する人以外を敵だと思っている節があって、自分はそういうのを越境していきたい。尊敬する黒沢清さんとかは、ジョン・カーペンターが好きでありつつキアロスタミが好きというメンタリティ、高橋洋さんもそう。私が好きなのは越境する人たち。
佐野亨:自分にとっては山田宏一と川本三郎っていうのが「二大巨頭」だけれど、 この二人は相性が悪く、なおかつ両方好きという人があまりいない。川本三郎はオールラウンドに様々なことを語るけど、それに影響を受けた人というのをあまり知らない。
真魚八重子:おそらく文学やファッションと同じように映画を語るからではないか。他にも例えば自分は平岡正明さんの文章も好きだけれど、データなどが間違っていることも多くて文章を書く側として参考にしづらい。特に自分は女性だから、もし印象や感性などで書いてデータなどが間違っていればバカにされる。理論武装をしないと付け込まれるから書き手として研究者や映画評論家じゃないと尊敬できない。
(6月1日追記)佐野亨さんによる訂正→「平岡正明を「いいかげんだけど好き」と言ったのは僕。真魚さんははっきり「尊敬できない」とおっしゃっていました。あと「研究者や映画評論家じゃないと尊敬できない」ということではなくて、正確なデータをもとに書いていない人は尊敬しづらいという話」
佐野亨:この感覚の違いはおそらく編集者と書き手の違いといった要素も関係しそう。つまり書き手としてどう考えてきたのかということと、編集者は雑食でという立場で考えてきたこととの違い。
「カテゴリ」について、自分の「書き方」について
佐野亨:中原昌也さんの文章に「マニアックな映画を見てるとオタク呼ばわり」される憤りを書いたものがあったが、あるジャンルに影響のある書き手がいると、それにカテゴライズされるという問題がある。
(↓映画サイト「INTRO」に掲載している佐野亨さんの文章に該当箇所あり、)
<ちょっと人と違う映画観てるだけでオタク呼ばわりされたりするわけ。本当に困ったモンですよ。全然違うだろうって。ふざけんな。そんなこと言う奴は死んじまえって感じですよ。ホント。映画ってそんな小さいもんじゃないんです>(『エンタクシー』vol.20「中原昌也の映画墓掘人」より。http://intro.ne.jp/contents/2013/04/16_1948.html)
真魚八重子:そういう窮屈な思いを感じている人もいて、自分もカテゴリから逃れようという意識で書いてきたからカテゴリにこだわる人からは避けられている。そのため書き手としてメンタリティが近いのは柳下毅一郎さん。映画だけではなくSFや幻想文学の翻訳など手掛けていて「越境者」として尊敬している。
佐野亨:カテゴリや分類って本当に危ない。「秘宝系」や「ゼロ年代」以降と何か意味を含ませてカテゴライズしないと語れない人も多い。自分自身が『ゼロ年代アメリカ映画100』という本を編集しおいて、それを言うかという話だけど(笑)この本はゼロ年代に何か意味を持たせているわけではなかった(注:後に「90年代」「80年代」と連続してシリーズの出版)
でも最初、柳下さんにこの本の原稿を依頼した時「00年代関連の本には関わらないようにしているんです」と丁寧に断られた(笑)
(6月1日補足)佐野亨さんのtwitterでの補足→「「秘宝系」とか「ゼロ年代」とかカテゴライズすることの弊害という話のなかで、僕が言いたかったのはゼロ年代をことさら特権化しようとする人たちの空疎さ。時代の特色というのは勿論あるが、自分たちが発言しやすくなった時代をイコール思想の転換期のように言うのは詐術論法だと思う」
(話変わって)
真魚八重子:この本(『映画系女子がゆく!』)を読んだ人が自分に感想をくれて嬉しいのだけれど、感想に自分語りが多い傾向にある。何だろう、書き手として自分はあまり読者との交流を求めてないのかも。
佐野亨:たぶん共感してほしいとかセラピー的なものを求めている人も多いのでは。
真魚八重子:それはありそう。でも朝日新聞の夕刊で映画『チャッピー』について「人工知能」なのか「身体」なのかという趣旨の文章を書いたけど(注:真魚さんは現在朝日新聞の金曜日夕刊で映画評掲載中)、自分は「文章」だと思う、文章の中にしか「私」はいない。こうやって喋ってても気の利いたことは言えない。
『映画系女子がゆく!』も滔々と語りながらも、共感能力を自分の事に惹きつけるのではなく一生懸命相応しい言葉を選んで時間をかけて書いた。今の女性の書き手の多くは属人性や共感させる方法で書いているが、今後彼女たちがどうするのかとは思う。自分の経験だけで書く人はもたないのでは、と。
佐野亨:トラブルメーカーだと自認することで自らを追い込んで、追い込まれることに快楽を感じている人もいて、それが表現に結び付くと歯止めが効かない。
真魚八重子:だから自分は自らのことを語るエッセイにあまり興味がない。「映画」というジャンルを使えば他の事で書いていける。
(↓次ページ:映画批評を書こうと思った原体験について)
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