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越境と覚悟について「映画批評をめぐる冒険」第二回(講師:真魚八重子)まとめ

      2015/11/26

(第二部)

映画批評を書こうと思った原体験。

真魚八重子:小さいころは小説家になりたいと思っていた。でも、小学生のときに金井美恵子先生の映画本を読んで映画もたくさん見なければと決意。ただ自分が住んでいたのは愛知県のはずれで映画館がなく、そのため映画を見るために私立を受験した。さらに金井美恵子先生の本を詳しく読むと『瀬戸はよいとこ 花嫁観光船』の山城新伍についても語っていて「こういうのも見なくてはいけないのか・・・」と(笑)古い邦画もたくさん見るようになった。

そんな感じだから『悪趣味洋画劇場』という本が出てきたとき加藤泰について語りながら『グリズリー』についても語るというコンセプトに親近感を覚えた。

 

佐野亨:その本は、田野辺さんの仕事ですね。最近出た『映画秘宝EX スラッシャー映画伝説!!』でも冒頭に「殺してやる」という文句があった。自分の考えとして映画秘宝のバランスは町山智浩が「陽」で田野辺尚人が「陰」っていう感じで保たれているのだと思う。「映画秘宝EX」シリーズはそういう「陰」の部分が出ている。

「女性」と「映画ジャーナリズム」

真魚八重子:自分は「オリーブ」なんて読んだことなく、小学生のころから「宝島」を読んで育ってきた。でもやはり映画ジャーナリズムは男性目線という視点が強くて、テリトリーに入ってくるなみたいな感じはある。

例えば「ポルノ」、SFやホラーと同じ一ジャンル。そういうポルノと言う形式から神代辰巳とかを輩出しているにもかかわらず、以前男性二人と女性一人でポルノの映画館に行ったときに「何があったら責任がとれない」と入場拒否されて凄い疎外感を味わった。「なぜ女性はポルノを観てはいけないのか」と。

 

佐野亨:「嫌だ」には、おそらく女性が怖いという心性が多分にあって、ネット上にあらわれる「おしえてあげるよ」目線の男性や、知識を試してやるかみたいな態度の人はテリトリーを荒らされたくない怖さがあるのだと思う。業界の中にも多い。

 

真魚八重子:女性読者からの反発もあるけど、「自分はそうは思わない」「考え方が違う」とシンプルな反論。

 

再び書くことについて

真魚八重子:例えば邦画の『ガール』や『グッモーエビアン』の何が駄目かを自分はキッチリ書ける、『500日のサマー』の何に腹が立つのかといった読者が抱く感情を言葉に出来る批評家としての自負はある。それは何故かというと、しつこく言葉にこだわるから、A→DまでをA→B、B→C、C→D、だからA→Dというように細かく展開していく。

ブロガーみんながそうだとは言わないけれど、自分を投影して書く感想が多い。それはプロにも多い。たとえば『ゴーストワールド』がハッピーエンドだとしつこく言う人がいるけど、どこをどう見たらあのラストがハッピーなのか本当に理解できない。

 

佐野亨:そうやって細かくきっちり言語化していくことは物凄い技巧だと思うのですが、でも作り手の視点が絶対という立場でもない。

 

真魚八重子:作り手は作り手の無意識を見抜けない。インタビューでうそを言っていたり、記憶違いもある。作り手の意見を絶対視するよう書き方は危険。

 

佐野亨:ヒッチコックとトリュフォーの映画術』もそうですもんね。丸め込まれているのを含めて名著。

 

真魚八重子:印象批評でもあまりに自我が強い人や、何か独自の路線に行っている人は凄い。

 

佐野亨:滝本誠さんとか(笑)

 

真魚八重子:そうそう(笑)、妄想がどんどん入ってくるんだけど、他の人にまねできないなめらかでつやのある文体。でも普通に単純な印象批評は、もちろん多様性はあってしかるべきだけど、それで書くのは恥だという意識が自分にある。

会場からの質問

Q1、初めてサイトに文章を書いた時も今回述べたような書き方とかを意識していたのでしょうか?

A1、タグ打ちの時代からネットに文章を書いていて、以前の文章に稚拙なところはあるが意識は変わってない。

 

Q2、個人的な質問なのですが、映画『ブラックハット』についてどう思うか?

A2、マイケル・マンがプロデュースも兼ねているから、映画を切れないという風に見た。だからやたらと長い。プロデューサーが別の人だったら短くなったと思う。

 

Q3,模範にした映画批評家などはいますか?

A3,もともと作家を目指していたから映画評というのは逃げだと思っていた。だから手慣らしとして書いていった。金井美恵子先生も手本にするというよりは、カメラマンに意識を向けるといったように見方を教えてもらった。あえて名を挙げるなら蓮實重彦さんや柳下毅一郎さん。

 

Q4,初めて映画ライターとして書いた経緯は?

A4,ブログを見ていた人の依頼で、『STUDIO VOICE』等に。

 

Q5,カンヌ映画祭で注目している映画はありますか?

A5,まだ全然追えていなくてファッションチェックのみ。ファン・ビンビンが素晴らしい.


 

というわけでこんな感じです。どうもあれですね、ノートをもとに対談をまとめると流れがぶつ切りで固くなってしまって悲しい。

興味を持った人は『映画系女子がゆく!』を是非。

自身の問題に寄り添わせるのではない細かな書きかたが『ヤング・アダルト』や『プラダを着た悪魔』といった映画評で光ります、特に『プラダを着た悪魔』、自分がずーーーーーっと感じていたモヤモヤが言語化されていてホント素晴らしいです。

セラピー的な形を目指さず、あくまで文章で勝負するという書き手の矜持に感銘を受けた講演会でした。個人的には「はてな」に投稿するときもブログだからと手を抜かないスタンスに自分も頑張んなきゃと強く思いました。


真魚八重子のサイト「アヌトパンナ・アニルッダ

http://d.hatena.ne.jp/anutpanna/

↑一番最後のページから読むと時評集のような趣もあって、ブログでありながら素晴らしい文章の数々。必読!


 

(参考のために『キネマ旬報』の映画本大賞2014の順位を掲載)

  • 1位:「スクリプターはストリッパーではありません」(白鳥あかね/国書刊行会)
  • 2位:「映画の奈落 北陸代理戦争事件」(伊藤彰彦/国書刊行会)
  • 3位:「トリュフォー 最後のインタビュー」(山田宏一、蓮實重彦/平凡社)
  • 4位:「映画術 その演出はなぜ心をつかむのか」(塩田明彦/イースト・プレス)
  • 5位:「曽根中生自伝 人は名のみの罪の深さよ」(曽根中生/文遊社/)
  • 6位:「成瀬巳喜男 映画の面影」(川本三郎/新潮社/)
  • 7位:「映画監督吉村公三郎 書く、語る」(吉村公三郎・著、竹内重弘・編、吉村秀實、浦崎浩實・監/ワイズ出版)
  • 8位:「伝説の映画美術監督たち×種田陽平」(種田陽平・著、金原由佳、轟夕起夫・構/スペースシャワーネットワーク)
  • 9位:「下品こそ、この世の花 映画・堕落論」(鈴木則文/筑摩書房)
  • 9位:「今野雄二映画評論集成」(今野雄二・著、石熊勝己・編/洋泉社)
  • (11位)「映画とは何か ─フランス映画思想史」(三浦哲哉/筑摩書房)

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