【映画評】『ドラゴンボールZ 神と神』が個人的に傑作だと思う理由
2015/11/27
最新作『復活のF』公開記念ということで金曜日に放送していた『ドラゴンボールZ 神と神』を久しぶりに見て、少し間延び感があるものの改めて面白いと思った。
というわけで前の前の弱小ブログで一番人気だった記事をハードディスクから発掘。
恥ずかしいところもあるけれど大体今の自分と同じ考えだったので少し修正して公開します。
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映画『ドラゴンボールZ 神と神』が傑作の理由
劇場公開当時「嫌い」という声が出たのはおそらくこの映画が「ドラゴンボール」っぽくないからだろう。
この映画は徹底的に劇場版のドラゴンボールに対して批評的である。なぜならこの作品は強くなって、負けて、強くなって、負けて最後に仲間の力を合わせた元気玉というお決まりの構造をとらない。つまりカタルシスがない。
物語がそのように終わらないだろうという予感は序盤で原作最強(単体において)のスーパーサイヤ人3がいきなり負けるというところから察せられる。
そもそも劇場版ドラゴンボールで一番苦手なのは「最初から全力でやれ」というグダグダ感だから、この展開にはかなり驚いた。
「最強」がやられたのだから、地球と家族を守るために敵とバトルをしない選択を取るベジータの姿はめちゃくちゃ泣ける。
プライドを捨てて破壊神ビルスを妻の誕生日パーティーに招き、ダンスをして接待するベジータの姿はまるで家族同伴のBBQパーティーで社長を接待する中間管理職のようで胸を打たれる。彼の姿はZ戦士じゃなくて完全に企業戦士だった…。
そうしたグダグダ展開も、ベジータがキレて一瞬悟空の戦闘力を越えるという場面への積み重ねだと考えると面白い。ベジータが自分の力で悟空を超えた瞬間、それは妻ブルマが頬を打たれたから(間接的な侮蔑表現)っていう描き方に本当のプライドというものが見えてベジータ大好き人間としては本当に感動したし・・・燃えた。
そうやってプライドを捨てたベジータだからこそ悟空も反応する。
スーパーサイヤ人ゴッドになったとき悟空が不本意そうなのが印象的だ。「この世界は自分で見たかった」という悟空の台詞には強さというものを自分で求めてきたキャラクターのプライドがある。
だが、そのプライドを捨てなければ勝てない敵なのだ。そしてその敵は悪ではない。「破壊」という役割をただ演じるだけだからこそタチが悪い。
みんなで力を合わせたスーパーサイヤ人ゴッドでも逆にラストにおいては巨大なエネルギー弾を敵に撃たれてしまってそれを返すことが出来ず破壊神を倒せない。さらに敵の強さ以上の存在が出てくることでアンチカタルシスは頂点に達する。
強さの相対性が行き着くところまでいくとこうなる。ただそれをすべて受け止めてもまだまだ悟空が笑うのがいい。強さには限りがなく、そこの積み重ねはやはり自分でいくしかないとでもいうように悟空のさらなる潜在能力が示唆され、破壊神がそれを認めることで地球の破壊は回避されて物語は終わる。
スカッとはしない。けれど感情の消化が起こらずモヤモヤするからこそ考えることが出てきて良いアニメ映画だ。
映像にしても光線技に頼って動画枚数を少なくする芸当は使わず肉弾戦主体なので、シンプルに「戦い」の醍醐味が描かれていてテレビ画面で見ていても非常に迫力がある。何と言っても破壊神ビルスとスーパーサイヤ人ゴッドの悟空が宇宙で対面する場面はハッとするほど美しい映像だった。
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