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文化を支える矜持、フレデリック・ワイズマン新作『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』

      2015/12/02

この作品のことだけを考えていれば他の見なくてもしばらくやっていける。そう思わせてくれる映画がたまにあってフレデリック・ワイズマンの新作『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』がまさにそれだった。

【原題】National Gallery、【製作年】2014年、【製作国】フランス・アメリカ合作、【配給】セテラ・インターナショナル、【上映時間】181分

【原題】National Gallery、【製作年】2014年、【製作国】フランス・アメリカ合作、【配給】セテラ・インターナショナル、【上映時間】181分


概要

フレデリック・ワイズマンと言えばドキュメンタリー映画の巨匠であり、『高校』や『病院』他にも『競馬場』等の非常に簡素なタイトルで長尺の映画を撮る。彼の映画はナレーションも何もなく徹頭徹尾説明をしない。観客はトンと目的地もわからないところで降ろされて、その場所で起こる良いことも悪いことも含めた出来事全体を経験する。

そんなワイズマンの新作は「美術館」が舞台である。

観光の名所としても有名なロンドンの中心地・トラファルガー広場にある美術館「ナショナル・ギャラリー」、年間500万人が訪れ、比較的小さい美術館ながら細かく収集していった名画の数々が見られること、入場料が無料(寄付制)である点から多くのロンドン市民に愛されている。

映画は、この場所で開かれた時期の違う4つの展覧会を通じ、美術館に携わる人々の仕事、観覧する人の表情や収蔵された絵を丁寧に見ていくことで絵画を展示するとはどういう意味を持つのか、そして文化を社会に開いていくとは何かといったテーマを見る側に叩き付けてくる

時間と長丁場だが、美術かあと思って見るのを躊躇ってる人でも本を読む等の精神的生活が生きていくうえで欠かせないと思っている人は絶対に見に行くべきだと思う。

修復

プロフェッショナルの仕事術を体感できる

修復する人、展示する人、掃除する人、切符を切る人、掃除機をかける人、ヌードのデッサンになる人、展示ごとの壁を作る人、照明屋さん、この映画はこれら美術館に関するお仕事を次々と紹介するため、自分だったらこの場合どうするかと見ている最中に頭を酷使する面白さがある。

「絵画をどう配置しますか?」

そう聞かれても途方に暮れてしまう。年代順なのか、その場合は壁をどう組み替えるか、照明の位置はどうかなど限られた時間内に次々と展覧会のテーマを連関させ作り上げていく作業。

もちろん、ここで美術の知識も必要となってくる。

例えば昔は照明なんてものはなかったから、自然光を計算に入れて画家は絵画を描いていたのではないかという観点、依頼主は誰か、その家のどこに置かれたかなど調べることは膨大だ。けれど調べたこと=知識が実際に仕事に生かされていくことの羨ましさがあった。

衝撃を受けたのは絵画の修復についてである。

絵画は時間の経過とともに傷む、だから修復が必要だ。ここまでは当然のこと。

しかし、どう修復するの?と問われた瞬間にやはり途方に暮れてしまう。

実は「修復」という作業も解釈なのだ。もとに戻すのはどこまで戻すのか、この黒色はニスなのか否か、絵画に描かれている後景の部屋は実は窓なのではないか等問題は次々に浮かび上がってくる。遠く離れた絵画の文脈を読み取り、新たな資料が発見されるたびに修復はやり直される。

自分の解釈すら間違うかもしれないなかでその都度修復する人は決断していかなければいけない。

「何ヵ月もかけて修復したものが十五分で消されることもある。だがそれでいいんだ」

この台詞の重さ、耐えず問い直していく議論の豊穣さ。映画ではレンブラントの絵の修復に際して一種ミステリーのようなお話も出てきて非常にスリリングだ。

文化を開いていくこと、使命に満ちた顔

まあ、しかしよくしゃべる。

一番しゃべるのが苦手そうな額縁を作る人もとにかく喋る、そこにあるのは美術を、文化を開いていくことの矜持である、ナショナルギャラリーという存在の持つ歴史と伝統を引き継ぎ、収蔵品を最適な形で世に送り出す美術に携わさる使命を彼らはしっかり認識している。

ただ保存すればいいというわけでもなく、ただ市場におもねってわかりやすい企画をして入館者数を増やせばいいというものでもない(ハリーポッターとコラボしたが何の意味もなかったという発言は笑ってしまう)だが古い美術館の価値観に捉われていてもいけない。何が最適なのか妥協をせず、議論を積み重ねる人々の顔。

バレエ

美術について考え、学芸員が喋る内容を聞いて絵画を見ていく人々の表情。この映画の最大の魅力は顔である。古い肖像画に描かれた顔、修復する人の真剣な顔、入場の列を待つ人々の期待に満ちた顔、何より絵画を見つめ深く思考する表情。誰もかれもが「絵と自分との関係性を見つけようとしている」

そして、我々もこの映画との関係性を見つけようと三時間苦闘する。普段使ってない脳が刺激される早くも「2015年」のベスト映画と言いたい。

(備考)

映画を見て思い出したお話に細野不二彦原作のアニメ「ギャラリーフェイク」の最終話「メトロポリタンの一夜」がある(漫画だと13巻)

メトロポリタン美術館の裏側を描いたこのエピソードは、美術館を金で支える人々の華やかなパーティーに付いていけない金持ちの老人が、ここの元キュレーターである主人公のフジタに連れられ医務室。洗面所の蛇口、電気技師、鍵、空調の管理などの美術館を裏で支える仕事場を巡ることによって、芸術を支えている人たちの「仕事」を理解しメトロポリタン美術館に多額の寄付をするというもの、こちらも名作なので機会があったら是非とも。

メトロポリタン

 

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 - 映画評

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