雑誌「映画酒場」には魂が込められている
2015/11/26
雑誌作りたいなー雑誌作りたいなー
こんな企画やあんな企画が頭の中にはあるけど~♪なんて歌っちゃったりした後で、まあ先に映画見よう。なんてことを繰り返していくと数年なんてあっという間に過ぎ去り。
しかも書きたいものを後にまわしていくとそのとき考えたことを忘れてしまい、これはいかんと忘れないために書いたメモをどこにやったか忘れ、発掘したと思ったら箇条書きで判別不能。
そんなことがよくある私ですが、それでもいつか書きたいなと思っていることがあって、それは「映画に出てくる詩」というテーマ。
世界文学に引用されてる詩がどのような効果をもたらしているのか?
このモヤモヤ感から私は詩を読み始めました。つまりは思春期に詩と接するという経験をしなかったわけなので(その接近は21歳ぐらい。映画をちゃんと見始めたのも20歳ぐらい)詩と映画に関してはどっぷり浸かるというよりもある程度批評的にor形式的に入らざるを得なかったわけです。
そうして詩と○○/映画と○○という本質を迂回しながら見ていくと、たまにそれが衝突することに気づきました。たとえば詩を読んでいたら映画の一場面が引用されていたり(映画館の詩なんかも多い)、映画を見ていたら詩が唐突に引用されていたり(ゴダール!!)、タイトルが詩の一節というときも(ヴィスコンティ『熊座の淡き星影』)、はたまた詩人が主人公だったり(キーツ)あるいはタルコフスキーの作品は「詩的」と称されることもあります。
文字と映像、全く違うようでいて実はこの二つ、響きあうものがあるのではという漠然とした考えを抱いて、しかし、その途方もなさに「いつか書こう」なんてことを頭の奥に潜めたまま、今回の本題「映画酒場」という雑誌を見つけます。
下北沢B&Bで茶色の封筒のようなデザインのこの雑誌をちらっと見かけたときは、胸がざわざわっとしました、そして創刊の辞を読んで同じこと考えてる人が嬉しくなりました。
巻頭のことば
「創刊号となる今号では、映画作品とそこから想像した詩人たちのこと、そして「詩の朗読」というテーマの文章4つを集めた。普通に考えれば決して交わることのない組み合わせばかりだが、これは個人的な物語なのだから、何の根拠もなくひとつの物語に結びついたってかまわないのだ。『映画酒場』は、酒を片手に、映画をめぐるさまざまな小咄を披露する場所。勝手気ままに、映画とさまざまなジャンルを横断していこう。」
普通に考えれば決して交わることのないものを結びつける、ここに詩的な感覚を抱き、もしかしたら一人で作品に対峙する孤独さ、その作品が自分にだけ語りかけてるんじゃないかという強い確信は映画と詩に共通するのではと思いました。
必ずしも映画の中に出てくる詩についてというわけではなく、映画から連想した詩とともに語りかけるスタイルは映画「ザ・グレイ」をめぐる文章に素晴らしい効果を発揮してると思いました。
「飛行機の墜落から生き残った男たちがアラスカの雪山で自然や狼たちを相手に生き残りをかけた戦いを繰り広げる」
あらすじだけ聞いているとアクション映画のような物語ですが、場面は静謐そのもので派手な演出はなく登場人物は静かに死んでいきます。自然の中、生あるものとして、獣と等価値の存在として。
一般的にはあまり評価の高くないこの作品は、けれど見た人に何かの感触を残します。それがなぜなのかずっと引っかかっていたのですが、この雑誌の論考で一つの解答を与えられた気がします。
主人公が口ずさむ「詩」と、そこから連想した詩人ガブリエル・ミストラルの生涯を重ねることによって見えてくるもの、それは「最後の闘い」という象徴的に描かれているように、人生においてもう一歩も立てないほど打ちのめされているときに詩がもたらす生への肯定という視点です。
だからこそ、この文章は「ザ・グレイ」を遺作として自殺した監督トニースコットへの弔文とも読めます。
「その決断を引き留める詩を、彼(トニー・スコット)は持たなかったのだろうか」と
他に収録されているテーマとしては、「過去は異邦に等しい」という冒頭から始まるジョセフ・ロージーの映画『恋』と立原道造について。
書かない詩人ジャック・リゴーと、その詩人を引用した『ママと娼婦』の監督ユスターシュを巡る不思議な一致について。
映画の中で朗読される詩について。
全部で15ページですがどれも読み応えがあります。そして創刊号ということで、次回はどんなテーマで攻めてくるのだろうと今から楽しみです。
・雑誌「映画酒場」サイト(http://culture.loadshow.jp/topics/eiga_sakaba/)
・下北沢B&B公式サイト(http://bookandbeer.com/)
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