旅を本当に楽しむための本『旅を楽しむ!トリビア大百科』
2016/05/20
一時期、「1秒間」に世界ではどんな出来事が起きているかという広告が電車内に掲載されることが多かった。
その伝える内容自体は、「だからどうした」という感じであまり好きではなかったが
情報をそのまま羅列するよりもデザインのなかに組み込む「インフォグラフィック」と呼ばれる手法はなるほどと思った。
この手法の利点は「数字」等の事実が見る側にバシッと入ってくるので情報を瞬時に把握できることだ。
本書、ナイジェル・ホームズ『旅を楽しむトリビア大百科』(日経ナショナル ジオグラフィック社)は旅に関する実際の出来事や、それに触発された思考などをそのインフォグラフィックの形式で掲載している。
デザイン本としても面白いし、読んでいくうちに重要な考えが知らず知らずのうちに理解できているという「役に立つ」本だ。
雲で天気を予測する、蚊に刺されるのを阻止する方法、モスクに入るための作法、世界における不作法例、時差ボケ防止法などといった旅行先で確実に役に立つ方法からココナッツの割り方、ジャングルでどの虫を食べるか(!)、墜落しそうなジェット機を操縦する・・・etc。
スーツケースのパッキング方法など細かな役立ち情報は載せていないが、旅を楽に過ごすための知識を得る本として重宝するだろう。
しかし、この本の素晴らしさは一見役に立たなそうに見える「赤道を歩いて一周するにはどれぐらい」、「ヒエログリフの読みかた」などの項目のほうだ。
なにしろこの本を開いた一番最初に出てくる内容が世界地図を逆さまに見るというページである。しかし、地図を逆に見ること、家でもやってみるといいかもしれない。これをすると想像以上に固定観念にとらわれているかに気づくと思う。
そして様々な思考が頭を駆け巡るはずだ。チリとオーストラリアが上にあることの違和感、中国は本当に海洋への道がないのだという国際政治の視点、ロシアの不凍港問題を日本史の知識ではなく現状の問題と考えること。
要するに北半球が上にある地図というものはひとつの概念に過ぎないにもかかわらず、私達はその見方にあまりに縛られていることをこのページで教えてくれるのだ。
本書でいう「楽しさ」とはそういうことだ、固定観念から抜け出すことで見えてくるもの。その固定観念から抜け出す指南書としてこれは「役に立つ」本なのだ。
旅というのは、自分の固定観念から抜け出す契機でもある。しかし、快適なホテルに泊まり話題のショッピングセンターに行き、お決まりの観光スポットをたどり、日本でも食べられる観光客用の味付けの食事をして免税店でお土産を買う。その一連の流れに自らが安住する固定観念を抜け出す契機はなかなか見つからない。一人旅を勧めて、パッケージツアーを否定するわけではない。
少し視点を変え、その自らが行くであろう組織化された観光地に「破れ」を見出したほうが旅は楽しいと確信しているだけだ。そうするための下準備として、そして携帯するものとしてこの本は最適なのだ。
ちなみに「破れ」を見つける方法として私がお勧めする方法は街中で捨てられているゴミを見ること、言葉を集めること、街を録音することである。
日経ナショナルジオグラフィック社
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