人類を存続させる思いやり『中原昌也の人生相談 悩んでるうちが花なのよ党宣言』(中原昌也、リトル・モア)感想
2015/11/26
「中原昌也」の「人生相談」、タイトルの段階でこの本は面白いに決まっているが、最初の悩み「陰口が怖くて飲み会で中座できません」に対しての「盗聴器を置くことです」という流れるような解答によってそれは瞬時に確信へと変わり購入。
中原昌也を知らない人はこの本に掲載されているやたらと細かいプロフィールによって、彼がめちゃくちゃ多才で有名な文学賞を受賞しているにも関わらず書きたくて小説を書いているわけではないこと、現状は何故か生活苦に陥っていることを知って驚くだろう。そして、もしかしたらまともな人生相談の答えは得られないと思うかもしれない。
たしかに一面では事実である。だがしかし、そこは「まとも」っていったい何でしょうという話だ。そもそも悩み相談の答えは難しい。この複雑怪奇で多方面に病みまくっている社会においては悩みに1体1で対応している明確な「薬」なんて存在しない。にもかかわらず、これが特効薬であるかのごとき相談本、無駄を排したシャープな切れ味を売りにするもの、相談者に対して怒ることで書き手の自意識を崇め奉る糞本などが巷では目立つ。
それじゃあ駄目なんじゃないかということで中原昌也の出番なのだ。悩みから上がったものではなく、体力の低下により悩む力が衰えた彼の対処法はどちらかと云えば「とんちんかん」ではある。けれど「彫り師の祖父の跡目を継ぎたくない」「養父の料理がまずい」「土下座ばかりしてくる子役を見てるとつらい」etc・・・といったまわりには変に思えても、本人にとっては深刻な悩みにはその風変わりな助言がじんわりと効く。
それはすべての回答の背後に、合理主義的な社会に対しての中原昌也の憤りが見え隠れしているからである。そのような変わった悩みは是正せねばならないといった個人を個人として扱わないイメージを跳ね除け、縮こまらずに反逆していこうよというメッセージは時にふざけつつも、どんよりと輝き、相談者の悩みにしっかりと寄り添っている。
個人的には「中学生三年生の息子が今もぬいぐるみを手放せず、それに向かってまいにち喋っている」という悩みへの中原昌也の力強い言葉が涙腺にきた。
「僕の中にもこの少年がいるような気がして、(中略) ひとつ言えるのは、こういう子は人を殺さない、ってことです。だから長い目で見守るしかないでしょう」
こういう文章が約1000円で読むことができる。それだけでも素晴らしいのに、相談の終わりには悩みに関連したオススメの映画が掲載されているサービスぶり。笑ったのが「相手に合わせてしまいNOと自分の意見が言えない」という悩みに対して『SF/ボディ・スナッチャー』を上げるおふざけである(この映画は地球が異星人に侵略され人々の複製人間が作られていくという筋)。こういう解答の一つ一つに対してふざけんなと怒る人がいることは今の余裕がない社会ゆえに予想はつく。でも、そういう人にはこの本を読んでゲラゲラ笑いながらも、同時に泣ける人もいるのだということを知ってほしい。人間はとっても変わっていて複雑な感情を持つ生き物だということを。
自分が一番好きな中原昌也の言葉は『エーガ界に捧ぐ』のどこかで言っていた「絶対に自分で死なない理由」である。
それは「死んでも自分をバカにした奴らが喜ぶだけだから」、自分の座右の銘の一つである。
(本書を読んでなにか心に来た人はこの本もオススメ↓)
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