岩井俊二のMOVIEラボ第三回「ラブストーリー」まとめ
2015/12/02
岩井俊二のMOVIEラボ 第三回「ラブストーリー編」まとめ。ラブストーリーだからまとめるのどうしようと思っていたけど、さすが普遍的テーマ「愛」、おもしろかったので抜粋。
(出演者)
岩井俊二
蒼井優
鈴木杏
樋口尚文
岸野雄一
後半から行定勲登壇。
(『ローマの休日』や『タイタニック』の映像。蒼井優と鈴木杏が主役を演じた『花とアリス』の映像にタイタニックのテーマ♪)
岩井俊二
「今日はラブスト―リーを語っていくということでですね・・・」
蒼井優
「わたし特に好きなラブストーリーがなくて、これはっていうのがパッと思いつかなくて・・・人の恋愛の興味ないんですかね(笑)」
岩井俊二
「人の恋愛に興味がないってのはキーワードのような気がして、人の恋愛の全部には興味がなくて、人の恋愛に見たいところがあるんだろうね。基本あんま見たくないと思うんだけど(笑)」
蒼井優
「どこが見たいんですね?」
岩井俊二
「カップルなんて歩いていてもずっと見たいなんて思わない・・・勝手にやっといてくれよとしか、でもスクリーンに二人がいると追いかけだすわけでしょ。ある種ストーカー行為だよね」
鈴木杏
「ふふふ・・・」
岩井俊二
「で、そのうち付き合ったり離れたりして。うぉーっと、じれったいじれったいと思いながら最後ハッピーエンドになるっていう、そこで終わる。みんな帰っちゃうっていうね。そのあと家庭作ったりいろいろあるんだろうけど。そこはひとまずいい、みたいな。映画とか小説になると・・・どういうメカニズムなんだろう、意外と不思議だよね」
(岩井俊二のラブストーリー原体験)
岩井俊二
「子供時代に見ていて一番理解できなかったのが男女の恋愛劇で、ドラマ見てても映画見ててもよくわからなかった、そんなときに『機動戦士ガンダム』を見たんですよ。それにやられてしまって・・・あの映画にはまった人はたくさんいたと思うんですけど自分の場合はラブストーリーとして何だこれは?というカルチャーショックがあった。シナリオが凄くて国宝級(笑)、まずですね・・・主人公のアムロ・レイってのがいますけど、お友達のような隣に住んでいる女の子でフラウ・ボゥってのが出てきて。まあだいたい、その当時の漫画の中でいえばずっとこの関係は崩れないっていう不文律がありましたよね。でもストーリーが進むにつれてだんだんパッとしない脇役とこうフェードアウトしていく。そんなアムロは途中でマチルダさんっていう年上の女性に惹かれたりなんかして・・・なんでそこに行ったのかというのが理解できなくて、ピンともこなくて、そこはスルーしたんですけど。カルチャーショックだったのはララァ・スンっていう、アムロはその人とおそらく数分間しか会ってない、会ってるとも会ってないともいえるまったく接点のないような関係の二人が宇宙空間で戦闘機とロボットに乗って遭遇するんですよ、そうすると戦っているうちに恋に落ちていくっていう」
岩井俊二
「ふつう見てたものと違う男女感が出てきて終わってみたら、なんだったんだろうと思いつつ今振り返ると自分が見ていた恋愛作品の中でもかなりの異色作だったんだなあと」
(ナレーション)
恋愛と言う要素はジャンルを超える。それゆえに恋愛映画というジャンルを厳密に規定するものは出来ない。恋愛という普遍性をとりあげているのでその手法は千差万別。よって今回は岩井俊二の監督作やゲストが選んだ作品をもとにラブストーリー映画における特徴やエッセンスを見ていく、とのこと。
(蒼井優 恋愛映画この一本)
蒼井優
「んー、ラブストーリ・・・あ、『ロッキー』とか。自分の中でもっともラブが中心になるって言ったら『ロッキー』」
岸野雄一
「最後の方、顔面ボロボロになって女性も献身的に支えるんですけど、どちらかと言えば(恋愛要素は)地味な感じ・・・」
蒼井優
「そう、あれが私はまだ親しみを持てるっていうか、なんかこうエイドリアンも私にとってはとても可愛い女優さんだけど、ほかの監督の作品の女優さんに比べると、ファニーフェイスっていう感じで、それにシルベスター・スタローンという組み合わせが好きだったんです」
樋口尚文
「あれとか、ウディ・アレンの『アニーホール』・・・ウディ・アレンとダイアン・キートン、あの辺も・・・」
蒼井優
「そうですね。劇場出てガラスの顔に映った顔を見てがっかりするのが嫌なんです(笑)やっぱり恋愛映画ってとってもキレイな人ととってもカッコいい人が恋愛してたりすると、やっぱり美男美女かみたいな気分で劇場を後にするじゃないですか」
(鈴木杏 恋愛映画この一本)
鈴木杏
「一番シンプルにラブストーリーって言ったら『レオン』かなあと思います」
鈴木杏
「どうしてもマチルダとレオンの年の差を感じなくなっていく、ナタリー・ポートマンの色気もそうだし、やっぱり私の中ではラブストーリーとして残ってるなあ、と」
(ナレーション)
愛する二人に「障壁」を設定するのは霊愛を描く代表的な手法のひとつと言えます。ギリシャ神話のなかにも見られます。
『ピュラモスとティスベ』の紹介。
いがみ合う両家に生まれた男女の愛の物語。『ロミオとジュリエット』の下敷きになったと言われている。
「障壁」が何重にも設定された作品としてルキノ・ヴィスコンティ『ベニスに死す』
樋口尚文
「あるときなんでこの作品にこんな惹かれるんだろうと冷静になって考えてみたら、要するに恋愛映画の鉄則、壁がある、コミュニケーション、国籍、男女とか・・・この作品の場合は男同士、年齢、最後は死別っていう壁だらけの映画なんで追い詰められていくんですよね」
岩井俊二
「人間を描くことの到達点。映画でここまで描けるんだと」
(『ベニスに死す』のラストシーンの映像)
岩井俊二
「最初から最後まで絶対的な他人だっていう壁を一歩も踏み越えられない」
樋口尚文
「見ているだけですからね」
岩井俊二
「それがイリュージョンを見ているような、最後の死に装束も見ていた時、衝撃的だった。男のやっているところって別に感情移入できるようなものではないんですけど、最後ここまでやられるとあっぱれみたいなところである臨界点を超える。あの少年がどこに向って指さしているのか、天国まで連れていく使者のようで、そこに初老の芸術家の人生までかぶさってくる。本当に深い映画」
(岩井監督作『花とアリス』と『Love letter』について)
岩井俊二「あれはラブストーリーだったのかね」
蒼井優「杏ちゃんの演じた花にとってはラブストーリー・・・。」
岩井俊二「アリスにとっては?」
蒼井優「火遊び?」
(会場爆笑)
映画『花とアリス』
花とアリスという二人の少女の恋愛と友情を描いた物語。同じ高校の先輩に恋する花は頭をぶつけて倒れた先輩に彼が記憶喪失だと嘘をつき恋人のふりをすることに。花はその嘘を貫くために親友のアリスを巻き込む。結果二人は淡く切ない三角関係に・・・。
杏&蒼井優
「どうですか監督は」
岩井俊二
「意外と父親が出てきて、アリスのファザコン的な思いを花の好きな男にぶつける、不思議な物語。自分の中では四角関係かな。肉親も入って・・・」
「ラブストーリのようなそうでないような。意識しているのは人と人が織りなすケミカルというか化学反応を追いかけているような気がしてるんですけど・・・」
(ナレーション)
恋愛の重層的関係を描いた作品としてエルンスト・ルビッチ「結婚哲学」の引用。
結婚哲学《IVC BEST SELECTION》 [DVD]
樋口尚文
「よく岩井監督の作品って少女漫画的って言われるじゃないですか。好きなんですか」
岩井俊二
「少女漫画もラブストーリーとしてみてないのかもしれないですね。ある音楽プロデューサーの友達が昔言ってたことがあって、男性はラブソングを聞いてもちゃんとその歌詞を聞いてないって。それで中島みゆきの『わかれ歌』みたいな体験あるって聞かれて、あの体験ってどんなのですかって聞いたあとに、ああ道に倒れて誰かの名を呼び続けたことがありますかってやつですかってやつですかって自分で言った後に、ああ!そんなこと言ってたんだって(笑)気づいてなかったという。そういうことがあるのかもしれないですね。少女漫画を見ていてもその音楽的雰囲気を楽しんでるのかもしれない。だからいまだにぼんやりしてるのかも、どうですかね女子から見て?」
鈴木杏
「わたしはあんまりそう思ったことがないんですけど、どう?」
蒼井優
「なんか(笑)少女漫画チックではないけれど、おじさんのなかにあるいけない少女性?」
岩井俊二
「あぶないじゃないか。」
蒼井優
「いや、どのおじさんも持ってると思う。それって女性からしたらとっても愛おしい。岩井さんの少女というかオジサンの持っている少女性っていう世界の面白さは女性からしたら愛おしいし、男性から見たら自分の中の少女が繋がっているからひきこまれるのかな、とそういった意味での少女ならわかる。」
樋口尚文
「鋭いですねw。世界中の生き物で一番乙女なのがオジさんですからね」
岩井俊二
「そういう変態チックなところも魅力なんですかね」
岸野雄一
「純粋だということで」
(岩井俊二監督作「LOVE LETTER」について、映画監督:行定勲の登場←90年代岩井俊二監督作の助監督)
「Love Letter」・・・・ナレーションより
婚約者、藤井樹を山の遭難事故で亡くした主人公渡辺博子。樹が中学生時代に片思いしていた女性との文通の中で自分と出会う前の婚約者の姿を知っていく物語。主人公博子の婚約者の樹は回想以外に一度も画面に登場しない。
行定勲
「僕が助監督だったんですけど、あれは失った人間、愛している人間が一人いるからこそ愛ってものが際立つ。で、岩井さんはその失った人間の最後の姿を見せようとしているんですよね。雪の谷底で死んでいった藤井樹、幼少期は出てくる、大人になっては出てこない、みんなが忘れていた藤井樹に関して語りはじめる、羨望嫉妬、記憶の美しさもある。だからこのラブストーリーは優れているって僕は語ってるんですよね」
岸野雄一
「不在が一番感情移入しやすい。」
行定勲
「そうですね。それって一番自分の好きな人間とかあてはめやすいと思うんですよ。堀辰雄の『風立ちぬ』、小説の方ですけど、途中からサナトリウム入って描かれなくなっていく、残された人間たちの思いは読者も気になっていく」
岩井俊二
「『風立ちぬ』はね、最終章もういないからねえ」
行定勲
「いないんですよ。突然いなくなっている」
岩井俊二
「死ぬシーンは描かれてない」
(行定勲 恋愛映画この一本)
行定勲
「僕が恋愛映画でいいなあと思うのは駄目になった男と女が失いかけたものを取り戻そうとするような、見苦しいもの。恋愛は綺麗じゃないという気持ちがあるんで『情事』とかひかれますよね」
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「男と女の惹かれあうどうしようもなさとか・・・欲望がね。映画に介在しているからどうにもなんないですよね。だから駄目になればなるほど狂おしく感情が高ぶっていく」
岩井俊二
「自分の原体験に何かあるのかも」
行定勲
「邪ですよね。不倫とかね略奪とか、正しいと世の中ではされていないことのほうが興味がある。そういうほうが障害があるから燃えるんでしょうね。抑圧しているから悶々としていて印象に残るのかなと」
(一分スマホ映画ロードショー ラブストーリー編)
『a cocktail』(監督:中澤友秀)
岩井俊二「一番異色だったものを一本」
(あらすじ)
三歩歩いても物事を忘れないにわとり界のカリスマ「オンドリー」、その秘訣とは一歩目には愛する鶏のことを、二歩目にはそのことを確実に忘れないというものであった。(食堂である男が鶏肉を食べるシーン)、ある日ひとりの男(鶏)が街中で「オンドリー」の秘訣をもとに「彼女を忘れない」「彼女を忘れない」とつぶやきながら歩いていると、一匹の女性(鶏)とすれ違う。彼女に惹かれ、追いかけたその瞬間!男は自分が何を思っていたのか思い出せなくなってしまったのだった・・・。
岩井俊二
「単純に面白かったんですけど。最初から最後までどのカットも面白かった」
中澤友秀
「(鶏の)衣装が届くはずだったんだけど・・・間に合わず。」
樋口尚文
「出さなくてよかったね。」
岩井俊二
「してたら落ちてたね(笑)」
(ストーリーに関して)
一回入った食事のシーンは思っていた彼女が食べられてしまっていて、死んでしまったという。彼女に似てる鶏を見て振り向いてしまったという感じなんです。
行定勲
「それはわかんないねw」
『次会うのは年末?』(張 かん陽)*「かん」は「日含」という字。
(あらすじ)
雑踏、東京駅、男性と女性。二人の会話、
「次会うのは年末?」
「一か月ちょい?」
改札で彼女を見送る男性。再び雑踏、カメラマンと会話し部屋に戻りアルバムをめくる。
岩井俊二
「これはドキュメンタリー?」
「ドキュメンタリーですね」
岩井俊二
「あまりにベーシックがしっかりしてて、逆に語ることがない。あ、遠距離恋愛なんだな寂しいんだなって」
行定勲
「自分は見てて反省した。最後に(改札を見送るシーン)あの顔で終わればそれで良かったのになあって思ってたんだけど、違うんですよ。そのあとにインタビューしてるから、ドキュメンタリーなんだなって、あ作ってないんだと、そこまでは下手なドラマに見えた。この人は入れたんだって、最後にアルバムみて本当の二人なのね。と」
(締めの言葉)
岩井俊二
「ラブストーリーについて追いかけようとしたんですけど、あまりに壮大な愛というテーマでですね・・・追いかけきれたんだろうかという思いがありつつ、これからラブストーリーはどうなっていくのかという。これからコミュニケーションの仕方が変わっていくなかできっとまた別の愛の物語が生まれてくるんだろうという思いがなくはないということで・・・終わります。」
ラストに一般投稿作品(テーマ「特撮」)
「円盤繭女」(監督:岡本晃)
空に浮かんでいる円盤・・・の形をした巨大な帽子。それを追いかける巨大な女性。帽子を頭に意気揚々と街を闊歩する、そして帽子はまた飛ばされる・
うーむ、テンポ含めてめちゃめちゃ面白い。言葉で表現できない(笑)スマホでどうやって撮ってるのか気になる。
岩井俊二コメント
「プロでも驚くかもしれない。一体どうやって撮ったんだろうと。話も馬鹿馬鹿しくて好きでした」
(感想)
あんま興味ないかなと思った特集「ラブストーリー」でしたが流石普遍的なテーマ。語る言葉の数々に、そういや俺ラブストーリー好きだったわ(笑)と再確認。関係性の変化が顕著だからこそあらゆる映画にラブストーリーは含まれてるなあと再確認。タイタニックとかの話をするのかと思いきや、急にガンダムの話をしだすという凄い展開、熱いのでそこは全文収録しました。
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